介護の裏話

私は訪問のマッサージ師をしています。脳梗塞後後遺症の方や、パーキンソン病の方など医師が歩行が困難と認めた方であれば健康保険を使ってマッサージ等機能訓練が可能です。こういった職業をしていると、患者さんや、そのご家族様から教えられることが多いんですよね。数年前の訪問先での事です。そこのお宅は老老介護で、奥様の介護をご主人がされていました。
訪問し、私の施術が終わり、そこのお宅を出ようとした時、認知症の奥様が突然大声を出して、ご主人の介護を拒否されたんです。ご主人の疲れ具合は理解していたので、絶望感のような感情が湧きました。でもね、疲れきってきるご主人が私に向かって余裕の笑顔で「これも人生の一ページですから」と仰ったんです。「これも人生の一ページですよ。いい時もあれば悪い時もありますよ。」満面の笑みでそう仰ったんです。長年積み重ねた夫婦の絆を感じました。
もしも立場が逆だったなら、私もこういう言葉が瞬間的に出せる夫でありたい、そうとも思いました。言葉ってその人の中から出てくるものですよね?良くも悪くもその人の心の中にある言葉が出てきます。感情は揺れるのが常ですが、自分の言葉に導かれ、辛い時も乗り越えられる力になると教えられた体験でした。
次はある末期ガン患者さんと出会って間もない頃に教えていただいた言葉です。「何か嫌な事があってもね、「あ〜良かった」って言えば
良いんですよ。〈だって〇〇じゃなかったもん〉とか、〈だって〇〇だったから〉っていうふうに言葉が続くから!悪い事があっても、その思いに引きずられずに考えを整理できるからですよ。それからね、三宅さんだから言うんですけども、私の様なガン患者さんに会って「何したら良いですか?」って聞かれたら、とにかく話して下さいっていうんですよ!なんか喋ってきはったら、〈あ~そうだったんですか…辛いですよね~それで、どうされたんですか…ああ、そうやってその時を乗り越えはったんですね!」ってとにかく徹底的に話を聞いてあげて下さいね。私自身がそうして欲しかったから。そうしていたらね、患者さんは自分で答えを導かはります」って。言葉には力が宿るからこそ、少しでも励みになる言葉、ねぎらいの言葉を口にしたいと日々自分に言い聞かせています。

その②

私は訪問専門のマッサージ師で健康保健を利用して、歩行が難しい要介護の方のマッサージや関節を動かす訓練、ストレッチ、歩行訓練などを日々行なっております。色んな介護サービスを受けている方との関わりの中で印象的なエピソードを二つご紹介します。より良い介護生活ののヒントになれば幸いです。その① 以前 私が訪問していた80代女性のお宅でのこと。初めてお会いした際「胃が痛い…」と仰いました。更に問診していくと、過去にご自宅に何度も泥棒に入られているとの事。犯人、許せないですよね? そこで私はそのお宅の玄関ブザーに細工をしました。どのような加工をしたかというと玄関の開戸をを両方とも思いっきり開ききらないと、延々と家の一番奥からブザーが鳴るようにしたんです。犯罪者心理として玄関の引き戸を両方とも思いっきり開きっぱなしで侵入はしないだろう、という考えからでした。それから二度と泥棒は侵入してきませんでした。胃痛の訴えは早期になくなりました。胃痛の訴えがなくなったのは私の施術の効果か?細工をした防犯ブザーの効果か?私には未だに分かりません(笑)その② 次は90代患者さんの話です。初めて訪問した日のことです。挨拶を済ませて問診していると「ベッドから立ち上がる時に、めまいがする。」と仰いました。普通に考えれば起立性低血圧からくる症状です。これは寝た状態や座った姿勢から急に立ち上がると、血圧が下がりふらつきや、めまい、動悸を伴う症状です。たかが(めまい)などと あなどれません。ベッドから立ち上がってすぐにめまいがおき、尻もちをついて腰の骨を圧迫骨折した患者さんの例もあります。一般的な説明を一通りしたのち、施術をすべく、介護ベッドに上がらせていただきました。その瞬間に今までどこのお宅でも感じたことのない妙な違和感を感じました。結論を言えば、家が古く寝室の下の基礎部分がゆるくなっており、ベッドの足付近より頭部分の床が数センチ程低くなっていたのです。そこでベッドが水平になるようベニヤ板をはさむと、それ以降は立ち上がる際のめまいやふらつきの訴えは無くなりました。この話は平成のエピソードです。最近の福祉用具の業者さんはベッドを設置する際にも水平器を使われます。ただ、この時も「患者さんの言葉は、多角的に見ないといけないなぁ。」と思いました。体のこと、心のこと、住環境のこと、他にももっとあります。視点を広くしておかないと患者さんのお悩み解決には届かないことを知った出来事でした。

その③

貴方は食事中に飲み込む時にむせたりすることはありませんか?年齢とともに筋力が低下して、それに伴い飲み込む力が若い時より低下するのは普通の事です。介護を必要とされている方の場合、飲み込みが不安で、ムセたりしてそれが原因で誤嚥性肺炎になる方もいらっしゃいます。それを防止するためにトロミ剤を用いる事があるのですが、そのトロミ剤の材料にも様々なものがあるんです。その一つに寒天があります。この寒天ですが、京都伏見が発祥ってご存知でしたか?伏見寒天プロジェクトの資料によれば江戸時代初期京都伏見に参勤交代で投宿した薩摩藩の一行に供したトコロテンの残りが野外に放置されて、夜中に凍り、日中に溶けを繰り返したことで水分が抜け偶然に干物のようになったのが始まりなのだとか。改めて伏見って凄い地域ですよね!トロミ剤として寒天は自然食品でもあり、アレルギーも起こしにくく便秘の予防や改善、コレステロールを減らしたり血糖値も下げる効果があり、さらに膨満感を得られるのでダイエットにも良い食材です。寒天100グラム中79グラムが食物繊維なので腸内環境の改善、善玉菌の増殖が期待でき結果的に生活習慣病の予防にも繋がります。自分でトロミ剤として寒天を使用する場合のやり方としては、粉カンテン小さじ一杯が2gなので、これを500〜600ccの飲み物に混ぜてトロミをつけるのが指標となります。ただあまりトロミが強いとよくない場合もあります。例えば便秘薬のマグミット(酸化マグネシウム)をトロミが強い飲み物で飲むと腸で吸収されず、便の中に溶けていない錠剤がそのまま出てくることもあるんです。それではお薬を処方してもらった意味がなくなるのでトロミ剤を薄くするなり、予めマグミットを水に溶かしてからトロミ剤を使用するほうが本来の便秘薬の効果が期待できます。介護中、食事にトロミをつけるのは誤嚥性肺炎予防のためなのですが、そもそも歯周病などで歯周病菌がたくさんあると誤嚥性肺炎になりやすいものなんです。寝たきりになったとしても訪問対応の歯科の先生に自宅に来ていただいて口の中のお掃除を定期的に行っていると、発熱する頻度が低くなるケースもよく見聞きします。歯周病菌が脳梗塞や認知症、糖尿病や動脈硬化を悪化させる可能性があることが以前から指摘されています。そう考えると定期的な歯のお掃除って大切ですね。寒天など自然の食品を日々の食事に活用し、歯磨きを中心に口の中を整えることがより良い介護につながります。

その④

新型コロナによる非常事態宣言などの時に比べれば世間は一定の落ち着きを取り戻しましたよね。新型コロナウイルスで世の中が騒然となっている時、メディアから「医療従事者に感謝を!」という言葉をよく見聞きしました。確かに命がけで医療崩壊を防ごうとし、日々奮闘されている医療従事者の方々には自然と感謝や畏敬の念が生まれます。ただ、個人的にはメディアからの「介護福祉従事者に感謝を!」という言葉がないことにかなり違和感を感じていました。随分以前、介護保険法施行前でしたが、私も高齢者施設でアルバイトをしたことがあり、また、現在も幾つかの高齢者施設に訪問させていただいているのでよく分かるのですが、入れ歯等の洗浄のため、唾液に接触する機会が多いのが介護現場です。オムツ交換やトイレの介助で便の処理を笑顔でしなければならないのが、介護の現場です。もともとお体が弱っているため、ちょっとしたことで発熱や咳、病態の急変や肺炎をおこしてしまうのが高齢者を相手にする介護の現場です。少ない人数で24時間、高齢者と共に生活をし、安らぎと健康と安全を見守るのが介護の現場です。もしも介護現場が崩壊したら…もしも幾つもの介護福祉施設で多くの高齢の利用者様と介護従事者が新型コロナウイルスに感染してしまっていたなら…もっともっと大変な事態になっていたと思います。そう思うと、メディアから「介護福祉従事者に感謝を!」って言葉をもっと流して欲しかったですね。介護が必要な家族を支えてくださっている介護従事者がいるからこそ、家族が成り立っている!会社が成り立っている!社会が成り立っている!この国が成り立っている‼︎そういうのって絶対にあるんです。本当にそうなんです!病院に行ったことが無いって人はまずいないと思いますが、介護施設に行ったことがないって人は一定数いらっしゃると思うので、イメージしにくい人もいるでしょうが…どこかでチョコっとこういう考えもあるんだってことを気に留めていただけたら嬉しいです。


その⑤

介護生活が始まったけれども「デイサービスにはいきたくない!」っていう人は一定数いらっしゃいます。合理的に考えれば、デイサービスに行くことで、ご家族も介護から解放される時間が持てるし、介護を受けている方も家庭内のみでの生活といった日常から離れ、色んな人との交流があるのは心身両面においてプラスの刺激が多いという事実としてあります。だからこそ医療や介護のそれぞれの専門家が専門知識や軽減に基づいて合理的な最善と思われる提案を介護を受けている人にするんです。でも、その思いが中々届かない場面があります。変えたほうが良いことが分かっていても、自ら決定して現状を変えることができない事を行動経済学では「現状維持バイアス」と言います。行動経済学という学問では、人間の意思決定には合理的な意思決定から逸脱する傾向にあり、それは思い込みがそうさせると想定されています。そもそも患者さんやご家族には、①「ここまでやってきたのだから、薬や生活スタイルを変えたりせずに続けたい」という思い込み。②「まだ大丈夫だからこのままでいい」という思い込み。③「今は決めたくない」という感情などが存在します。患者さん、ご利用者様が後悔なく、ご自身の自己決定のもとで、幸せな結果にたどり着くようにという思いからの提案が必ずしも患者さんの心にまで届くとは限らない以上、患者さんや患者さんのご家族も気をつけた方が良いことがあります。それが今回のこの文章でお伝えしたいことです。それは「決めなければならない項目が何かを、整理して家族等と共有し、価値観や大事に思っている事を専門職に提案し、その価値観を軸に比較が容易な3〜4つの選択肢を提示してもらう。」という事です。例えば【寝たきりにはなりたくない】という気持ちを家族と共有し、【人が多い所に行くのは苦手】という価値観を専門職に提案すれば、理学療法士の訪問リハビリやデイケアの選択肢が提示され、そういったものを利用する事で筋力の低下を防ぎ、寝たきりにならない体づくりが提案される、というような事です。えっ⁉︎でもウチのお爺ちゃんの場合はすでに介護サービスの枠がいっぱいでこれ以上はそもそも無理‼︎っていう事ですか?それならば介護サービスの枠がいっぱいでも訪問マッサージならば出張費も含めて健康保険で訪問してマッサージや機能訓練を受けることが可能ですよ!